1.入浴EMSによる大腿四頭筋の強化
お風呂で使えるEMS試作機を用いて、左脚のみに大腿四頭筋への入浴EMSを実施し、足を蹴りだす力(膝伸展力)が左右の足でどのように変化するのか観察した。膝伸展力はアニマ社のミュータスF-2で測定した。絶縁体電極試作品を防水ケースに入れた市販のEMS(トレリートEM300)に接続して使用した。被検者は70歳、男性1人。
結果を下図に示す。週に平均4.1回の頻度で1回当たり平均14.3分、湯船の中で左脚大腿部にEMSを実施した。右脚の膝伸展力に対する左脚の膝伸展力の比でみた場合、介入前は1.02であったが、入浴EMS介入2ヶ月経過後から左脚膝伸展力の増加が見られ、3か月が経過した1月3日から2月24日までの期間の平均値は1.26となった。介入前の比に対して23%の増加が見られた。
左脚膝伸展力だけに注目した場合、介入前平均値33.0kgに対して、介入4日月目以降(1月3日から2月24日までの)平均値は49.6kgとなっており、50%の増加が見られた。
2022年1月7日に、筋肉の過剰疲労が起きていないかどうかを確認するために、血中のクレアチンキナーゼ(CK)値を測定したが結果は104で正常範囲(29~243IU/L)であった。
2.世の中のデータとの比較
世の中の医学系、医療系論文から、大腿四頭筋への室内でのEMS(NMES)施術による膝伸展力の変化データを拾い、上記入浴EMSのデータと比較した。縦軸に介入前後での膝伸展力の改善率をとり、横軸にEMS(NMES)の累積実施時間をとることで全てのデータを一つのグラフに集約した。下図参照。
この結果、世の中の室内EMS(NMES)では、最大30%改善効果が得られている。これは透析患者の左脚に累積740分施術したときのデータである。一方、入浴EMSでは、健常者の左脚に累積960分施術したときに最大約60%の改善効果が得られている。
温浴中のEMSが高い筋トレ効果を示していることが分かる。
3.肛門周辺への入浴EMS実施による膀胱底挙上率の変化観察
湯舟の中で肛門周辺にEMSを15分実施することで、骨盤底筋群の収縮が起こりやすくなる結果が得られた。肛門周辺への入浴EMSの実施は”how to use”項目の”肛門括約筋、骨盤底筋への刺激”のイラストの様に行った。筋トレモードを使用した。
肛門をギュット締めようと努力するとき骨盤底筋の意識的な収縮(随意収縮)ができる。骨盤底筋が収縮すると膀胱の底が押し上げられる。超音波画像診断装置でこの膀胱底の挙上を観察することで骨盤底筋の収縮程度を間接的に観察することが出来る。
先ず入浴EMSを実施する前に、安静時の膀胱底と随意収縮時の膀胱底の位置を測定したところ、随意収縮により膀胱底が7%挙上することが分かった。(下図上段)膀胱内には水があるため膀胱は黒く撮像される。
次に、湯舟の中で肛門周辺に15分間入浴EMS(筋トレモード)を実施し直ぐに風呂から出て安静状態で膀胱底を観察し続いて随意収縮時の膀胱底を観察した。この結果、入浴EMS後は随意収縮により膀胱底が13.8%挙上した。(下図下段)
この結果から、肛門周辺に15分間入浴EMSを実施するだけでも骨盤底筋群の収縮が起こり易くなると思われる。