野一色蒸熱電気治療器との出会い
- 1983年 妻の嫁入り道具である、熱と電気刺激を同時に人体に与える野一色蒸熱電気治療器なるものを知る。この治療器は、湯たんぽ状の金属電極の中に熱湯を入れ、電極表面を覆う布をびしょびしょに濡らし、それを皮膚に当てて人体に温熱刺激を与えながら微弱電流を流すと言うもの。大正7年に鳥取市の野一色家で開発された民間療法の装置(下図)である。
- 野一色義明氏が仙台地方検察庁へ提出した回答書(昭和37年8月22日付け)によれば、その作用機序は不明ながらも熱刺激と電気刺激の相乗効果により、血液循環の著しい改善や原爆症に対する明瞭な治療効果、東南アジアでの黒水病が確実に治ることをはじめ諸症状に効果があったようである。昭和6年には、男爵郷誠之助氏、安田銀行頭取安田善次郎氏、宮内大臣牧野伸顕氏らの勧めもあり、東京市に電気医学校を設立している。戦前戦後を通して政財界の代表的な人物がこの施術を受けていた。前述のお三方を始め、内務大臣後藤新平氏、文部大臣鳩山一郎氏、豊田佐吉氏、岩崎久弥氏、御木本幸吉氏など枚挙に暇がない。
- 2002年 20年間我が家で使用する中で、何度か顕著な効果が見られることがあった。例えば、妻が重篤な急性肝炎で入院したときに義父がこの装置を病院に持込み施術すると翌日には嘘のように回復した。やけどやぎっくり腰、捻挫にも著効が見られた。実はこの装置を使わなくても治ったのかも知れないのだが個人的感想としては施術との因果関係を強く感じた。インフルエンザの予防接種をした後に施術すると予防接種の効果が無くなることもあった。
- これらの経験から、熱と電気刺激の同時投与が細胞や神経や免疫システムなどにどのような効果を及ぼすのか興味を持つようになり研究を開始することにした。
絶縁体電極の開発
- 2011年 電極の温度や電流波形などを変えられる研究用試作機が完成した。熱伝導性を高めるために銅製の電極としたが、実際に使用してみると電極から銅イオンが溶出し電気分解によるpH変化が観察された。これでは安心して人体実験はできないと判断し先ずはその対策を打つことにした。NOVOCURE社(米国)は高誘電率セラミック電極に高周波交流を流すことで悪性の脳腫瘍(glioblastoma)の治療を行っているが、低周波では電極インピーダンスが高くなるので使用できないと書いている。また、東芝総研と東北大学の絶縁物電極に関する共著論文(医用電子と生体工学、1973, Vol.11, No.3, 161頁)では人体への刺激電極として使う為には数μF/cm2以上の静電容量が必要であると記載されている。もし絶縁体電極が低周波電気刺激に活用できれば、電極表面での電気分解やイオン溶出の懸念が無くなりお風呂の中でも安心して使えるようになる。先行研究の記述から難しい課題であると思われたが挑戦してみることにした。
- 2015年 比誘電率が極めて大きい(約15000)Y5V系チタン酸バリウムパウダーを用いて焼結膜を作り、導電層や防水被覆を形成することで防水型セラミック電極を試作した。実際に入浴して人体に使用してみると低周波電気刺激を人体に伝えられることが分かった。これにより銅電極の様に電気化学反応を起こすことなく入浴中でも安心して使える電気刺激用の絶縁体電極の可能性が開けた。
- しかし、セラミック電極は曲げると割れてしまうことからフレキシブルな電極の可能性を探るべく色々は静電容量を持つ絶縁体膜を用いて人体実験を行った。この結果、皮膚の静電容量よりも大幅に小さな静電容量の絶縁体膜であっても人体に低周波電気刺激を与えられることが分かった。
- 2017年 この発見をもって低周波電気刺激用絶縁体電極に関する基本的な特許を作成し出願した。樹脂にチタン酸バリウムパウダーを分散することで比誘電率が100を超える絶縁体電極膜を作成した(下図)。
- 2019年 かながわシニア起業家グランプリ、ベストアイデア賞受賞
- 2019年 特許第6573920号取得 「低周波電気刺激用絶縁体電極及び装置」
- 2020年 特許第6696084号取得 「低周波電気刺激装置用防水ケース、防水型低周波電気刺激装置、及び、低周波電気刺激用絶縁体電極」
- 2020年 JETRO外国出願補助金を獲得し米国、欧州、中国へ特許出願
- 2021年 製品レベルの性能、耐久性を有する高誘電率ポリマー電極を開発。
- 2021年 東京都立産業技術研究センター及び東京都立大学大学院との共同研究開始、「水中で使用できる低周波電気刺激装置の試作と温熱刺激との相乗効果の検証」
- 2022年 入浴EMSによる筋トレ効果を測定。膝伸展力の強化が室内EMSに比べ2倍となる結果が得られた。(EVIDENCEの項を参照)
- 2023年 温浴トレーニングEMS ”ゆったりフィット FT-A100” 完成